いとぶろ

いとうくんの楽しい毎日

夜歩く

夜の街を一人、歩く、のが、好きです。暗くなって人気のないビルの合間、ピカピカ光る自動車が走る道路沿いの道、誰でもない人々が歩く街、古本屋はシャッターを下ろして、点々と居酒屋の灯りだけが道標となった街。どこにでもあるだれにでもある風景。幽霊の時間。

僕は例えば大学生のころを思う。僕は例えばもう読まなくなった作家を思う。僕は例えば、聴かなくなった音楽、観なくなった番組、もう連絡を取ってない友人、朝早く起きて近所の公園で飲んだコーヒーの味、終わった生活、深夜あてもなく歩いた道、ずっと昔に確かにそこにあったはずの、何か、もう元に戻らない、二度と戻らないあらゆるものを思う。そういうものが、そういう感じとなって僕を包み込む、死んだ時間。幽霊たちの風景を歩く僕の死んだ時間。足がボロボロになりながら三駅となりのブックオフまで歩いた道。毎週のようにバーガーナッズを聴きながら通った梅田ブルク7への道。たった一人、自転車で走り続けた道。難波から北新地まで歩き続けた夜の御堂筋。深夜にバスもなくなって仕方なく歩いた楠葉から下宿までの道。通天閣のあかりが消えた新今宮までの道。そうして、今ここが一体どの道なのかわからなくなる。幽霊。死んだ時間、僕。時間が飛ぶ。気がつくと微かな足の痛みと共に、電車に乗っている。現実から切り離された時間は終わりを告げている。寂しい。さよならだけが人生だって誰かが言ってた。僕たちまた来週会おうね。

おわり。