いとぶろ

いとうくんの楽しい毎日

またあした

大学二回生か、三回生か、よく覚えてはいないが、おれはその当時、本谷有希子と本気で結婚したいと思っていた。フリクリのEDに出ているし、綺麗な顔をしているし、暴走しているし。おれは憧れたね。だから、おれは、『異類婚姻譚』をある種のNTRモノとして読むことに決めた。しかし、どうだ。読んでみても、おれはまったく絶望しなかった。おれはこの「旦那」ってやつは、おれのことのような気がしてならないんだ。ずっと、語る「私」に感情移入してきた、「おれ」が、語られる「旦那」こそが、「おれ」だと感じた。

「おれ」と「旦那」は以下の点が似ていると思う。

・一日三時間テレビを見ている(おれの場合はユーチューブだが)

・だらしがない

・何もしたくない

・何も考えたくない

・本当は草木になりたかった(重要なファクターだ。おれの場合はしいたけになりたい)

・人を食べている

・人に食べられている

・トラブルのときは人の影に隠れる(そうしているとまるですべてが他人事のような気がする)

・働いている

・食欲がない

ハイボールを飲んでいる

西武新宿線沿いに住んでいる(おれは作家はみんな西武新宿線沿いに住んでいるという誇大妄想に取り憑かれている)

・人の形でいたくない

・山のいきもの(おれは山のなかにある秘密基地で『暗闇の中で子供』の文庫本を読んだ経験がある)

・お経をよんでいる(祈り)

もちろん、おれは想像力をもったいきものであるから、そういう相似点を勝手に頭のなかで妄想して、結びつけて、空想して、納得してしまうところはあるが、しかし、これは、これはそういうのではない気がする。違う。おれは本谷有希子は本当は「おれ」のことを語っているんじゃないか?とか、そういうことが言いたいわけじゃない。違うんだ。おれはさっきから、いつの間にかおれの一人称が「おれ」になっていることに気がついている。いつからだ?

おれの番が来たのだ。

おれは今、食べられている。

食べられるし、食べられたし、今も食べられてる。

ずっと食べる側だった、おれが、今、

これがおれがやってきたことへの罰だったのなら、どれだけよかっただろう。

しかし、残念ながら、ここにそんなわかりやすいもんはない。

おれは、おれとなってしまった。

おれを食べている、そいつはおれからは見えない。

神が今、このタイミングでおれに『異類婚姻譚』を読ませたことには意味がある。つまり、つづきがある。

ここは暗い。

おれの肉体はとうの昔に朽ち果てている。知っている。

そして、今、魂

異類婚姻譚 (講談社文庫)

異類婚姻譚 (講談社文庫)