いとぶろ

いとうくんの楽しい毎日

ゴールデンウィーク備忘録⑤完

41日目

 滅入る。結果から言えば僕は失敗した。僕がなにかを語る前に電話は切られてしまった。僕はもういい。好きにしてくれ。すべてどうでもいい。未来は俺等の手の中になかった。ただそこにあると祈りたかっただけだ。本当は何も変わらない。僕には何もできない。

 夜、投げやりな気持ちを抱えたまま大阪行きのバスに乗る。夕飯はつけ麺を食べた。僕の隣は若いお兄さんでいびきもうるさくなかったが、僕の右後ろの大学生のいびきがうるさくて結局一睡もできなかった。ふざけんなよカス。

 

42日目

 滅入る。仮眠をとってから梅田ブルク7へ。久しぶりの梅田ブルク7に感極まる、かと思われたがとくにどうということもない。数多い映画館の一つというだけ。レオくん回で泣いてしまう。

 夜は駅前ビルのなかにある串カツ屋に行った。途中、パイセンと合流。ヒプノシスマイクの悪口で盛り上がる。盛り上がっていたのは僕だけだったかもしれない。いや、やっぱり二人で盛り上がっていたと思う。楽しかった。

 その後、淀屋橋へ。SOJADOJA「DIE」を熱唱しながら川沿いを歩いた。

 

43日目

 滅入る。大阪2日目。午後まで寝て、それからアメ村のほうへ。人が多すぎてただひたすらしんどかった。難波、日本橋のほうまで行きたかったが、しんどすぎて断念。三角公園でたこ焼きくらいは食べたかったがどのたこ焼き屋も行列ができていたためこれも断念。まったくこちらの想定通りに物事が進まなくてビビる。

 ミナミに見切りをつけて、御堂筋線で中津へ。淀川に将来のこと、夢のこと、自分のことなどを話した。淀川は何も云わず、ただ黙って僕の話を聞いてくれた。嬉しかった。心地よくて芝生の上で少し眠る。頭上を飛行機が通り過ぎていった。春の陽気がポカポカ気持ちよかった。

 夕方、中崎町の銭湯へ。露天風呂で父子子がしりとりをしていた。

 夜、同期と呑む。ここ最近の安倍政権について語り合う。僕だけ阿部和重のことだと思っていたのでまったく話が噛み合わず。

 みんなでラウンドワンで馬のゲームをした。僕の馬はあんまり強くなかった。とほほ。

 

44日目

 滅入る。大阪3日目。朝早くに京都へ。中書島で降りる。駅前のカフェーで朝食。僕以外に客がいなくて最高だった。それから川沿いの道を歩いていると月桂冠大倉記念館にたどり着く。せっかくなので入場。展示にはまったく興味がなかったが、お土産に日本酒をもらえたので、さっそく濠川の流れを眺めながら呑んだ。

 ほろ酔いで京阪電車建仁寺へ行くため祇園四条で下車。急に人が多くなる。中書島に帰りたくなる。幸い、建仁寺はそこまで混雑していないかった。庭園を眺めながらボーッとする。間違いなくこの境内では僕が一番禅している……。禅についての知識が『鉄鼠の檻』しかないけど僕が一番だった。僕はすごい。

 その後、バスを駆使し哲学の道へ。到着する頃にはすっかり体力を奪われていて、今すぐにでも帰りたくなったのですぐに帰った。容赦なく照りつける太陽&ごった返す人々&寝不足の身体。無理だ。

 夜、押見修造惡の華』を全巻読破する。これはいとうくんのことを語っている……いや、違うのか……いや、やっぱりこれはいとうくんのことか……?となった。高校生編からいとうくんのことになったと感じた。島田荘司のおかげか……?と最初は思ったが、そうではなく、僕も春日くんと同じように、仲村さんではなく、佐伯さんでもなく、常磐さんを選んだからだ、と思った。

 

45日目

 滅入る。大阪4日目。梅田ブルク7へ。夢と悪夢は表裏一体だ。

 僕たちが愛する限りKING OF PRISMはきらめき続けなくてはいけない。たとえ、その先が地獄だとわかっていても。だから、これは呪いなんだ。僕たちはどちらかが倒れるまで氷上で踊り続けなくてはいけないのだ。僕たちのきらめきがKING OF PRISMをきらめかせ、KING OF PRISMのきらめきが僕たちをきらめかせる。終わることのない循環システム。神に見捨てられた世界で、僕たちは僕たちのためだけに祈る。

 そう。呪いと祈りもまた、表裏一体なのだ。僕たちの進む先は地獄かもしれない。だが、祈り続ける限り、その更に先には新たな楽園が広がっている可能性だって、ある。

 僕は祈る。

 帰りの新幹線で長尾謙一郎『クリームソーダシティ』を読む。いとうくんはまだおかしくないですよね?不安になってくる。

 

46日目

 滅入る。東京にいる。かつて僕が住んでいた街は少しずつだけど変わってきていた。僕はそのことが嬉しかった。

 僕はあらゆる物事に変わり続けていてほしい。僕がかつて住んでいた場所、今住んでいる場所、すべてが完膚なきまでに変わってしまい、僕の居場所はもうどこにもないのだと突きつけてほしい。過去に囚われつづけるのは不健全だ。同じ場所にいつづけるのは不完全だ。あらゆる人の想いが、誰の記憶にとどまることもなく流れ、ひそかに消えていってほしい。記憶も記録もない魂が、それでも何かを期待して、死んでもなお、循環を続ける。変わっていく街並みのなか、どこにもたどり着くことのない魂だけが増えていく。

 僕は終わったもの、過ぎ去ってしまい、もうここにはないものしか愛せない。今、ここにあるものには我慢がならない。

 一瞬たりとも、今、この瞬間が永遠に続けばいいと感じたことなどないし、過去に戻りたいと思ったこともない。

 僕が小学生のとき、世界は苦痛でしかなかった。はやく中学生になりたかった。

 僕が中学生のとき、世界は退屈でしかなかった。はやく高校生になりたかった。

 僕が高校生のとき、世界は普通でしかなかった。はやく大学生になりたかった。

 僕が大学生のとき、世界は永遠でしかなかった。はやく卒業したかったけど、社会人にはなりたくなかった。僕は小説家になりたかった。

 そして僕は今、社会人をやっている。

 本当なら明日で終わるはずのゴールデンウィークはきっと終わらない。

 

47日目

 滅入る。唐突に、なんの脈絡もなくゴールデンウィークが終わった。世界は循環することをやめた。

 結局、僕にできることなど何一つなかった。繰り返されるゴールデンウィークは、僕の知らないところで勝手に展開し、僕の知らないところで勝手に結末したらしい。ヒプノシスマイクは僕の知らないところで勝手に救済され、僕の知らないところで勝手に脱出したのだ。

 もうどうでもよかった。

 勝手にやっていてくれ。

 布団の上で、目を閉じて、また開けて、いつまでも変わらない天井がどこまでも続いていることにうんざりしながら、僕は過ぎ去っていったゴールデンウィークを愛し続ける。

 

おわり