いとぶろ

いとうくんの楽しい毎日

いとうくんの再生日記〜沖縄編〜5日目

 ここまでの再生日記を読み返して、僕は頭を抱えた。
 なんだ、これは?
 僕は一体、何をやっているんだ……。
 駄文をだらだら書き繋いで、それを恥ずかしげもなく公開して、あげく、自分で何度もリツイートする始末……。
 5日目、僕はぶらぶら国際通りでお土産を探し、バス移動で疲労した身体をマッサージで癒し、琉球の歴史を感じるため首里城と玉陵に足を運び、旅の疲れを洗い流すため栄町市場で貝を喰らい、酒を飲んだ。
 頭がズキズキ痛んだ。まだくらくらしていた。
 昔、鬱病で苦しんでいるケンちゃんに「僕もわかるよ。僕もなんか、なんだろう、ダルいし、頭も重たくて、どうでもいいよ。どうでもいいことしかないんだ。何しててもつまんないし……。だからケンちゃんの気持ち、わかるよ」と声をかけたら「お前のそれはフリだろ?やめてくれよ、もう俺には構わないでくれ」と突き放されたことがある。それ以降、ケンちゃんとはまともに口を聞いていない……。
 どうやら……どうやら、僕のこれはフリ、偽物らしい。
 死ね。
 僕はその時、死ね、と思った。今でもそう思っている。
 もうね、嫌になっちゃった。みんな、好き勝手に喋って、好き勝手に分析して、好き勝手に判決して。みんなきっと、自分のなかに自分の価値観があって、自分の善悪があって、自分の信念があって、自分の思想があって、自分の言葉があって、だから、こんな、傍若無人なふるまいをされるんでしょうね。
 みんなはいいなぁ。羨ましい。ずるいよ。
 僕もね、有名なブロガーあたりがたまたま僕のブログを読んで、面白いって拡散してくれて、みんなが「この天才は何者……!?」って驚愕して、そのツテで編集者から声がかかって、エッセイなのかなんなのかよくわからない本を出して、それが全国の書店の自己啓発コーナーに平積みされて、何万部も売れて、地元で僕を馬鹿にしてきた人たちが一斉に声をかけてきて、大阪で僕を馬鹿にしてきた人たちが一斉に声をかけてきて、東京で僕を馬鹿にしてきた人たちが一斉に声をかけてきて、みんなを一堂に集めて土下座させて、本が売れに売れたから仕事も辞めて、ある日ラジオに呼ばれて、そのユニークなキャラクターがウケて、それを聞いたテレビのディレクターから声がかかって、NHKのちょっと知的な番組にゲスト出演して、そこでお笑い芸人にいじられながら番組を盛り上げて、その調子でドラマ出演したり、アイドルに楽曲提供したり、ニュースにレギュラーで呼ばれたりして、いつの間にかお茶の間の顔になっていて、二作目にして初の長編小説を出版して、それが芥川賞のタレント枠で受賞して、受賞式で破天荒なふるまいをして、それがまた話題になって、村上春樹と対談本を出して、個人のYouTubeチャンネルで適当な雑談動画をアップして、ドタマとコラボ楽曲をリリースして、カンヌ映画祭に呼ばれて、三島由紀夫賞の選考委員になって、たまに文芸誌に短編を載せて、深夜枠に自分の番組を持つようになって、そこで考えたキャッチフレーズが流行語大賞にノミネートされて、地元に帰るとみんなが僕のことを知っていて、大阪に帰るとみんなが僕のことを知っていて、東京に帰るとみんなが僕のことを知っていて、みんなが僕を必要としてくれるような、そんな人間になりたかったよ。
 そんな人間になりたかったのだ。


 何も考えないで書くと、いつもこんな文章になってしまう。頭が良くないから。中身のない人間だから。才能もないから。うんこ製造人間だから。


 次の日、僕は沖縄を飛び立った。僕の乗った飛行機は太平洋の真ん中に墜落して、それで僕は死んだ。