いとぶろ

いとうくんの楽しい毎日

東京タワーと僕と、僕

317日(日)

昨日がんばって書いた記事が全然読まれなくてかなしくなる。僕は3回読んで6回泣いたのに……。もうどれだけがんばってみても何の意味もないみたいだし、変なことを書くのはやめようと思う。楽に書ける日記だけ書いていくことにしよう。本当に起こったことだけを書いていくことにしよう。キンプリ応援上映に行って元気になる。だけど夕方過ぎにはかなしくなる。休日が終わるのが怖くてもう休日すら嫌いになってきた。かなしい。馬券が当たったことだけが救いか……


318日(月)

まったく記憶がない。本当のことだけ書こうにも、本当のことを覚えてないのだからなにも書くことができない。仕方ないから嘘を書くことにする。けど嘘も出てこない。なにもない。ジャンプを読んだのは覚えてる。


319日(火)

仕事が終わらない。あげく、職場の人たちが僕の悪口を云っている気がしてきた。あれ?


320日(水)

仕事が終わらない。相変わらず周りの人たちは僕の悪口を云っている。仕事だって、今日は終わるかもと思っても、必ずあらゆる要因に阻害される。でも一番の原因は僕の能力のなさにあるので帰り道かなしい気持ちでいっぱいになる。明日は休みなのでハイボールを飲みながら駅から歩いて帰る。


321日(木)

6時に目がさめる。お米と青汁が届くので午前中は家にいなくちゃいけない。まどろみながら、『BLOOMS SCREAMING KISS ME KISS ME KISS ME』と『めぐまれない大人達』と『ファンキーヤンキーベイビーくん』を読む。ナヨナヨしたモノローグこそBL漫画の醍醐味なのかもしれん。お昼過ぎに髪を切りに行く。髪を切る人と話すのは苦手なので鏡を見るが鏡に映る自分を見つめるのも苦手なのでじっと手を見る。髪を切るのは好き。それから新宿ベルグ石丸元章さんの朗読会に行く。飛び込み参戦の女の人が漢の小説の漢パート(?)を朗読していて新鮮だった。石丸元章さんは前にちょこっと会ったことがあるだけのいとうくんのことを覚えてくれていて感動した。そのあと、読書するため喫茶店に入るけど、1ページ目を通すまもなく爆睡してしまう。とにかく疲れていたのだ。外に出ると真っ暗だったので東京タワーに行くことにする。およそ一年ぶりの再挑戦。結果は惨敗。今回も東京タワー征服ならず。きらきらと輝く東京タワーはきらきら輝いていないと入ることができない。上野動物園と東京タワーと心中したい。それから帰りの電車のなかでどうでもいいような日記を書く。あとは大きいお風呂にでも入ってお酒呑んで寝るんだろう。明日も休みなので遠出したいけど僕の体力がないから怪しい。頑張って湘南あたりに行ってみたいのだけど……

きらめく

 ーーわりぃけど。
 結局、最後まで香賀美くんは僕と目を合わそうとはしなかった。
 新幹線のドアが閉まる。僕は遠くなっていく香賀美くんを、ただ眺めることしか出来なかった。
 それが僕が最後に見た、香賀美くんの姿だった。

 

 香賀美くんとは小学校からずっと同じクラスだった。と云っても、そこに例えば運命とかそういう概念はなく、ただ僕たちの通っていた学校が学年に1クラスしかないようなところだったというだけだ。
 まわりと喧嘩ばかりしてクラスのなかでも浮き気味だった香賀美くんと、人から嫌われることを過剰に恐れていつもへらへらと笑っていた僕。
 普通に暮らしていれば、臆病なだけの僕と、周りとぶつかることを恐れない香賀美くんが関わりあうことなんてまずなかっただろう。
 しかし、小3の夏休み、とある出来事をキッカケに、僕たちの仲は縮まった。ここではその出来事については語らない。香賀美くんを失った僕にとって、その出来事は文字通り宝物であり、僕には自分の宝物を誰彼かまわず見せびらかすような趣味はない。
 とにかく僕たちは仲良くなった。休み時間は二人で学校の隣にある山を駆けめぐった。(休憩時間だけそこに立ち入ることが許可されていた。)放課後は二人で香賀美くんの家に行って、香賀美くんのお姉ちゃんを交えて遅くまで遊んだ。香賀美くんは運動が得意で、サッカーやバスケをすれば僕と香賀美くんのお姉ちゃんの二人がかりでもまったく歯が立たなかった。かわりに勉強はからっきしで、宿題のときだけ僕は香賀美くんより優位に立つことができた。算数の問題に頭を悩ませる香賀美くんを見ているのはなんだかほほえましかった。
 相変わらず、教室のなかでは香賀美くんは窓際の自分の席でぼんやり外を眺めていることが多かったけど、僕が近づくと普通に会話をしてくれた。香賀美くんと仲良くなればなるほど、他のクラスメイトからは疎まれるようになったけど、僕はまったく気にならなかった。香賀美くんがいれば楽しかった。香賀美くんの前でなら、臆病にへらへら笑う必要もなかった。みんな、香賀美くんを怖がって、へんなちょっかいをかけてくるようなこともなかった。
 僕は香賀美くんがいればそれでよかったし、香賀美くんも僕といるときだけは楽しそうにしていた。
 そんな僕たちの仲に変化が生じ始めたのは、小5の夏休み明けだった。
「おい、知ってるかよ。プリズムショーってすっげぇんだぜ!」
 新学期初日、教室で珍しく声を高ぶらせて、香賀美くんは僕の肩を強く揺すった。
 香賀美くんはこの夏休み、お父さんの仕事の都合でずっと東京にいた。どうやら、そこでプリズムショーというものに出会ったらしい。
 プリズムショーとは、どうやら東京のほうで流行っている一種のスポーツのようなものらしいが、まだインターネットも十分に発達していないような田舎町では誰もそんなものは知らなかった。もちろん、僕を含めて。
 香賀美くんは、プリズムショーは祭りだとか、心が燃えるだとか、炎が出るだとか、そういう説明をしたけど、正直まったくピンとこなかった。
 惚けた顔をしていると、香賀美くんは、
「じゃあ放課後うちに来いよ。見せてやっからよ」
 と宣言した。

 云われなくても、僕は放課後は香賀美くんのうちに行くつもりだった。なにせ一ヶ月ぶりに香賀美くんと会ったのだ。僕のほうにも、話したいことはたくさんあった。香賀美くんがいない夏祭りで、新興勢力が幅をきかせ始めたこと。町の図書館で読んだおもしろい小説のこと。台風でラボの扉が一部破損したこと。子猫を飼い始めたこと。僕が猫アレルギーだったこと。山のなかで捕まえたクワガタのこと。クラスメイトの上田くんと二ノ倉さんが二人で祭りに来ていたのを目撃したこと。家のトイレが新しくなったこと。絵日記を描いてなくて昨日まで真っ白だったこと。コーヒーが飲めるようになったこと。夏休みに出会った、不思議なおじさんのこと。町で起こった神隠しのこと。一学年上で、香賀美くんと喧嘩したこともある山上くんが神隠しにあったこと。不思議なおじさんが山上くんの神隠し事件を解決したこと。不思議なおじさんは、自分のことを名探偵だと名乗っていたこと。山上くんに告白されたこと。
 その日は始業式で、午前中で学校は終わった。僕たちはいつもの田んぼ道を歩いて、香賀美くんの家に向かった。
 香賀美くんの家に行くと、縁側で、香賀美くんのお姉ちゃんがスイカを食べていた。聞くと、中学校は明日まで夏休みらしかった。中学生はいいな、と思った。僕も早く大きくなりたかった。
 今日はなにして遊ぶの?と訊いてくる香賀美くんのお姉ちゃんに、香賀美くんは教えねー、と冷たく返した。えー、なんでよー、と香賀美くんのお姉ちゃんは不服そうだったけど、香賀美くんは無視して僕の手を引いて裏山へとさっさと歩き出した。香賀美くんの手のひらはうっすら汗ばんでいた。
 裏山の、崖下にちょうどいい感じの空き地があって、そこはまわりに草が生い茂っていてちょっと外から見ただけじゃ空き地があるなんてわからないから僕と香賀美くんは生い茂る草木をかぎ分けた先にラボを作っていた。香賀美くんのお姉ちゃんも知らない、秘密の場所。段ボールや枯れ木を使って作った二人だけの世界。
「見てろよ」
 ラボに着くなり、香賀美くんは、早速地面を滑り始めた。本当は音楽にあわせて滑ったり踊ったりするらしいけど、僕たちは音楽を持ち運べるような機械は持っていなかったから、セミの鳴き声やどこからともなく聴こえてくる鐘の音や草木がこすれる音をBGMにするしかなかった。
 それでも、香賀美くんは楽しそうに滑っていた。それは例えば、お祭りのときに見せるとびきりの笑顔だった。夏祭りのとき、激しく神輿をかかげるように香賀美くんは滑り、踊った。
 そして香賀美くんは最後に地面を蹴って高く飛び上がった。僕はそれを見たとき、ラボが焼けてしまう!と本気で焦った。実際には香賀美くんの出した炎を何も燃やさず、ただ僕の心を熱くしただけだった。
 うまいこと地面に着地した香賀美くんは、得意げな顔で僕を見た。僕はなぜか目をそらしてしまった。

 それから香賀美くんは毎日放課後、プリズムショーの練習に打ち込むようになった。場所はいつも僕たちのラボだった。香賀美くんが跳び、僕はそれを眺める。退屈ではなかった。香賀美くんのプリズムショーは日を追ごとに良くなっているように思えた。僕は気付けば、香賀美くんのプリズムショーに夢中になっていた。ただ、プリズムショーをしている時の香賀美くんは、そこにいる僕じゃなくて、誰か別の人のことを見ているような気がした。だから、香賀美くんのプリズムショーは好きだったけど、プリズムショーをする香賀美くんのことは、あまり好きにはなれなかった。
 ある日、ついに耐えきれなくなって、帰り道僕は香賀美くんに久しぶりに他のことをやってみないかと誘ってみた。例えば、バスケとか、カードゲームとか、なんでもいい。プリズムショー以外のことを。

 小6の冬休みだった。
「やだ。プリズムショーよりおもしれぇもんなんかねぇ」

 だけど香賀美くんは聞く耳を持ってはくれなかった。
 香賀美くんはまっすぐだった。いつだって自分に正直だった。他人からなんと云われようが、自分のやりたいことを貫き通した。
 香賀美くんにとっては、僕だって立派な他人なのだ。
「プリズムショープリズムショープリズムショーって……。そんなのやって何になるんだよ。この町じゃ、誰もそんなの知らないのに!」
 気づけば僕は叫んでいた。
「……そうかよ」
 叫ぶ僕を、香賀美くんは冷めた目で見つめる……。
「好きにしろよ」
 それだけ云うと、香賀美くんは一人でラボのほうへ行ってしまった。僕を置いて。僕はしばらくそこに立ち尽くして、それから一人で家に帰った。

 

 それから冬休みがあけるまで、香賀美くんと会うことはなかった。冬休みがあけても、香賀美くんと喋ることはなかった。そして三学期も終わり、春休みがあけて、僕たちは中学生になり、クラスが別れて顔をあわせる機会も減った。

 

 香賀美くんが東京に行くことを知ったのは、中学を卒業して高校生になるのを待つだけの何者でもない春休みのことだった。僕は友達の家にいて、何人かで麻雀をしていた。
「そういえばさ、二組に香賀美っているじゃん?あいつ、東京に行くらしいぜ。プリズムショー?とかいうやつの学校に進学するとか。馬鹿みてぇだよな。なんだよそれ」
 その時の僕がどういう感情で行動したのか、僕にもよくわからない。ただ、気がついたら血塗れになった友達が倒れていて、誰かが怒鳴っていた。
 ここは僕がいるべき場所じゃないと感じた。
 ラボに行きたい、と思った。
 僕は友達の家を飛び出して、何度も通った香賀美くんの家までの田んぼ道を走った。
 香賀美くん!香賀美くん!香賀美くん!僕は心のなかで何度も叫んだ。
 久しぶりに見た香賀美くんの家は、記憶とまったく変わらずそこにあった。見慣れた玄関を叩くと、香賀美くんのお母さん出てきた。あら、久しぶりねと陽気に挨拶をする香賀美くんのお母さんに、僕は一言、香賀美くんは、と呟いた。


 もう香賀美くんは駅行きのバスに乗っていた。

 

 それからどうやって駅まで向かったのかを僕はよく覚えていない。かすかに記憶しているのはきれいな馬の背中で、だけど、まさかいくらここがど田舎だとは云え馬がそのへんを走っているわけもないからきっと夢を見ていたんだろう。香賀美くんのお父さんあたりが車で送ってくれたのかもしれない。

 

 駅のホームで、香賀美くんはなぜか大量のネギをリュックに詰め込んで新幹線が来るのを待っていた。その姿が妙におかしくて、僕はちょっと吹き出してしまう。それで緊張がほぐれたのか、久しぶりだと云うのに自然に喋りかけることができた。
「なに、そのネギ」
「……んだよ」
 久しぶりに、面と向かって対峙する香賀美くんは、少し照れくさそうに俯いた。
 当たり前だけど、香賀美くんは小学生のときより背も伸びて、体つきもしっかりしていた。目つきもずっと鋭くなった。もう、小学生のころの幼さはまったく残っていなかった。大人になっていくんだ、香賀美くんも、もちろん、僕も、と思った。
「プリズムショー、続けてたんだ」
「あぁ……?あたりめーだろ」
 そうだ。当たり前なのだ。プリズムショーをしているときの香賀美くんはきらきら輝いていたのだ。その煌めきが潰えるようなことなんてのは、絶対に起こりえないのだ。それは呪いに近い。呪いに近い何かに突き動かされるように、香賀美くんはこれまでプリズムショーをやってきたし、これからもプリズムショーをやっていくのだ。
「……東京、行くんだ」
「ああ。殴んなくちゃいけない人がいる」
 きっとその人が香賀美くんにプリズムショーを教えてくれたんだろうな、と思った。
「香賀美くん、」
 何か云わなくちゃいけない。でも何も云えばいいのかわからない。伝えたいことはたくさんあった。訊きたいことはたくさんあった。だけどそうするだけの時間が僕たちにはなかった。
 ホーム中に響くアナウンスを聴く。黄色い線の内側までお下がりください。
「んだよ。云いてぇことあんならさっさと云えよ」
 だけど、僕は何も云えない。僕は何も云えない。僕は何も云えない。僕は何も云えない。
「……新幹線、来たぞ」
 気づけば香賀美くんはすでに新幹線のなかにいた。そこは黄色い線の外側。僕には絶対に越えることのできないところ。香賀美くんはここではない場所に行くのだと、ようやく実感が湧いた。香賀美くんは、僕じゃ届かない場所へ行こうとしている。どこにも行けない僕を置いて。僕はここにいることしかできないのに。
「香賀美くん、」
 新幹線のドアが音を立てる。香賀美くんはここではないどこかへ行ってしまう。行ってしまおうとしている。

 でも。でも、まだ。まだ、今はまだここにいる。
 伝えなきゃ。

 

 ーー好きでした。

 

 香賀美くんは一瞬、目を丸くして、それから一言だけ、

 

 そして、香賀美くんはもうここにはいない。

 

 それから僕はホームのベンチで一人で泣いた。驚くことに、そこからどうやって家に帰ったのかも僕は覚えていない。

 僕はそれから三日間、熱を出して寝込んでしまった。僕にしては、一日にいろいろなところを忙しく動いたからかもしれない。おそらく僕に移動は向かないのだ。僕は、裏山の、誰からも見えないようなところでひっそりと息を潜めているほうが性にあっている。所詮、ただの平凡。僕はどこにも行けず、ただただ田んぼが広がるだけのこの世界で死ぬまで生きていくのだ。

 一週間後、動けるようになった僕は久しぶりにラボに行ってみた。驚くことに、そこには小学生のときとまったく変わらず、段ボールと枯れ木で出来た小屋があった。
 中に入ると、湿った段ボールや枯れ木の匂いに混じって、かすかに香賀美くんの匂いがした。

 そこは、体を曲げることでようやく寝ころぶことができるだけの小さな世界。
 さようなら、僕の青春。
 好き、でした。
 誰もよりも、何よりも。
 もう二度と戻らない日々よ。
 幸福な記憶とともに、夢も見ず僕は眠る。

おしまいのひ

 2018年3月4日(日)15時45分。僕は梅田ウィンズにいて、レース開始のファンファーレが鳴るのをただ待っていた。そこにいるすべての人たちが、ただ待つことしかできなかった。息を潜めて、馬券を力強く握りしめて。僕は寝不足の瞳で発射を待つ馬を見つめる。昨夜は断然人気ダノンプレミアムがその人気に応えることができるか心配であまり眠れなかった。それで朝早くに目が覚めてしまった僕は、どうにも胸がそわそわして我慢できずお昼前には梅田ウィンズにいた。「どこいくん?」慣れない玄関で靴を履いていると、後ろから声がした。その頃、僕はずっと住んでいたアパートを引き払って弟の部屋にお世話になっていた。もう僕には大阪に居場所なんてなかった。「競馬行く」
 しばらくして、ようやくファンファーレが聞こえてきた。何かが決まろうとしていると感じた。そして、終わってしまうように思えた。パドックに飽きて壁際に避難した時、ずっと座って熱心に新聞を読み込んでいたおじさんが「ここはこない」と呟いているのを見た。ネット競馬の掲示板の有識者も距離不安やコース適正をしきりに気にしていた。僕は競馬の詳しいことはよく分からないけど、みんながそう云うなら、そうなんだろう、と思っていた。人気ほど勝利は確実とは云えず、そこには少なからぬ懸念点があるのだと。
 そして、馬が発射して、
 どこかでだれかが叫んだ。
 まだ朝の6時だった。今週風邪を引いてから、目の覚める時間がどんどん早くなっている。僕は時刻を確認するために手に取ったスマホを放り投げて、ゆっくりと身体を起こした。今日は朝から大事な映画を観に行く日だった。
 よく昔のことを夢に見る。ダノンプレミアムが圧勝した次の日、僕は少なくない荷物を持って東京行きの新幹線に乗った。着いてみれば東京はひどい雨で、契約した不動産がある中野駅からアパートまでのバスで隣の女の人に「東京はいつもこんな雨が降るんですか?」と訊かれた。知らなかった。女の人は、こっちに住む息子に会いに初めて東京に来たらしかった。僕は適当に笑っておいた。最悪なスタートだと思った。大阪に居場所はなく、東京は僕を歓迎していない。ダノンプレミアムは成功し、僕は負けたのだと思った。僕と、サトノクラウンは。
 あれから、ちょうど一年が経つ。
 王者ダノンプレミアムはダービーの大敗を最後に、今日までついに一度も走ることはなかった。僕のほうはといえば、大した敗北もなく、日々をぬくぬくと消費しているよ。
 もちろん、いろいろなことはあった。あり得ないような出会いもあった。誰かが仕組んでるんじゃないかと勘ぐるような奇跡もあった。そして、たくさんのかなしいこともあった。ずっと、何かをかなしいと感じる気持ちが、僕の中にはある。僕の中にあるのは、たぶん、それだけなのだ。そうして、全てはこれから終わるんじゃなくて、もう終わってしまったんだと気づくのだ。
 新宿の朝は静かだった。僕は意味もなく新宿の地下街を徘徊した。それは、もうどこにも無い、だけど、かつて、確かにあった記憶の残滓だ。イヤホンから聴こえてくるのはバーガーナッズで、全部終わった。全部終わったよ。
 だけど続く。

 映画館にいるすべての人が、緊張しているのがわかった。緊張と不安と興奮。僕はこれと同じ光景を見たことがある。それも、何度も。

 ずっと続いている。
 来週、約一年間の沈黙を破り出走が決まった馬がいる。巨大なスクリーンの前に座り、これから始まるであろう青春について思いを馳せる僕もいる。たしかに何かは終わって行くが、それと同じように続いていく何かもある。
 スクリーンはゆっくりと僕を照らす。
 つづく。

にっき

朝起きたら頭が痛かった。なんでなのかはわかんない。一〇時半くらいまで布団のなかにいた。疲れてるのかもしれない……と思った。最近、帰る時間と寝る時間が遅くなってきていて、寝不足なのかもしれない。毎日十一時に寝てたのが十二時に伸びた。明日が来るのが怖いので明日になってから寝るようにしている。じゃあ今日は怖くないのかというと、怖い。結局怖いなら早く寝るべきなんだろうけど、漫画アプリの更新は0時なのだからしょうがない。大きいお風呂に行くことにも外にお酒を飲みに行くことにもあんまり積極的ではなくなってきたけど、昨日は大きいお風呂に行ってお酒を飲んで帰ってきた。ちょっとだけ疲れが取れたし楽しかった。そろそろどっかのヒップホップクルーに入れてほしい……。今日は一文字も本を読めなかった。かわりに『喧嘩商売』の22〜24巻を読んだ。全部読んだことある話でびっくりした……。玉拳の人が好き。それから新宿ベルクに行ってビールを飲んだ。駅ビルの中にあるしビールが安いので楽しい。でも新宿まで来て、ベルクに行く以外には何一つやりたいことがなかった。メロンブックスに行っておけばよかった……。紀伊國屋書店タワーレコードに行ったけど足が疲れただけだった。帰りに新宿ベルクに行ってビールを飲んだ。どうしてこうなってしまったんだろう。まったく前進せず、何も更新されず、かといって後進することもないまま日々が過ぎていく。明日はプリティーオールフレンズカフェの予約をしたけど今から原宿に行くのが憂鬱で仕方がない。もうしばらく人混みはいいや……という気分。ていうか、ウチはグッズが欲しいだけやねんけどカフェまで行かなあかんの?プリズムストーンショップ阿佐ヶ谷店の中学生店長いとうくんは抗議します。そういえば中野に行く前に高円寺に行った気がしてきた。けど何をしたのかよく覚えてない……。意味もなく早稲田通りを散歩しただけだったと思う。

おわり。

世界④

僕(いちごちゃん)は送られてきた記事(http://ito-67890.hatenablog.com/entry/2019/02/10/141808)

を読み終えた。そして云った。

「先輩も暇だなぁ……」

そして間抜けだ。作中でリレー形式の作中作に乗り気じゃない態度を取っておけば、天の邪鬼な僕なら逆に乗っかってくると踏んだんだろうけど。お生憎様です。忠実な後輩は、先輩のお言葉をそのまま返そうと思う。他人に頼らず、自分でやりな。僕は今日の午前中を眠りに費やすことに決めているのだ。なにせ、素敵な三連休は始まったばかりなのだし。それじゃ、おやすみなさい。

世界③

僕(いとうくん)は送られてきた記事(http://ito-67890.hatenablog.com/entry/2019/02/10/141437)を読み終えた。そして云った。

「きつっ」

きつかった。一体全体、どういう気持でいちごちゃんがこれを書いて、僕に送ってきたのかはわからないが、しかし、これは……。そもそも僕はキャラクターに名前があったり、性格があったり、過去があったり、そういうのに我慢がならないのだ。まあ、百歩譲って、赤の他人がそれをやっているのは、いい。いいとする。でも、そこに僕を出すなよ。僕を僕というキャラクターとして登場させるなよ。読んでいるこっちが恥ずかしくなってくる……。まあ、いちごちゃんなりの誠意なのか、本当のことは書いていないだけマシではあるが。僕は『きみとぼくの壊れた世界』も『不気味で素朴な囲われた世界』も読み返してなんかいない。僕が読んだのは世界シリーズ三作目、『きみとぼくが壊した世界』だ。実を云うと世界シリーズを僕は2作目までしか読んでいなくて、先日ツイッターで『混物語』発売キャンペーンの「拾陸診断」で病院坂黒猫タイプと診断されたときにこれも何かの縁か、と思い3作目に手を出してみただけなのだ。確か、金曜日に飲み屋でその話をいちごちゃんにした覚えがある。ああ、だから、この記事はそういうことか。確か、いちごちゃんは世界シリーズは全部読んでいたはず。飲み屋でそう云っていたのを微かに覚えている。ってことは、当たり前だけど、『きみとぼくが壊した世界』も読んでいるわけだ。だから、送られてきた記事は中途半端に作中作の手法が用いられていたんだろう。いちごちゃんのちょっとしたイタズラ、サプライズというわけだ。まあ、しかし、なんだ。『きみとぼくが壊した世界』にも云えることだけど、こうも軽いノリで作中作をやられると、ちょっと、なんというか、興奮する。人が大事にしているものを、データベース的につまんでやっちゃった感じ。串中弔士じゃないけど、『別に理由なんかないですよ。やってみたくなるじゃないですか』、といったところか。いや、もちろん、西尾維新に理由がないわけではないんだろうけど。でも、たまんないっすね。

さて、しかし、いちごちゃんがこれを僕に送ってきたということは、この続きを書けということなんだろうけれど、僕は書かない。作中作という手法を匂わせるためとはいえ、すでに2章まで自分で書いておいて、3章から僕に続きを書けというのはちょっと理屈に合わないんじゃないか。それこそ中途半端だ。だから、あれだね。他人に頼らず、自分でやりな。僕は二日酔いで頭が痛いから寝る。

世界②

僕(いちごちゃん)は送られてきた記事(http://ito-67890.hatenablog.com/entry/2019/02/10/140918)を読み終えた。そして云った。

「いつも思うんですけど、先輩の感想文って我が出すぎてて気持ち悪いですよね」

ガッ、と先輩が叫び声をあげて固まる。そのリアクション、ギャグでやってたらどうしよう……。面白くなさすぎて反応に困る。こういうときはスルーが無難だ。僕は先輩に構わず感想文の感想を続けることにした。

「それに、なんで本の感想を書くのにわざわざ嘘をつかなきゃいけないんですか?そもそも先輩が読み返したのは『きみとぼくの壊れた世界』じゃなくて『不気味で素朴な囲われた世界』だし、それにそれを読んだのだって今日の午後ですよね。先輩、午前中は二日酔いでずっと死んでたじゃないですか。ずっとゲロ吐いてたじゃないですか」

素敵な休日を過ごしている風を装いたくて無理やりカフェの写真とか載せる女子大生でもあるまいし……。それにもし素敵な休日を過ごしている風を装いたくて午前中に本を読んで二度寝したことにしたのだとしたら、先輩の素敵な休日のイメージが貧困すぎて泣けてくる。

「で、ホントのところを聞かせてくださいよ。どうでした?西尾維新なんて読むの、久しぶりだったんですよね。中でも先輩は『不気味で素朴な囲われた世界』はとくに好きだったと記憶していますけど」

うーん、と唸ってから、先輩は語りだした。

「まあ、面白かった。これについてはどういう話だったかそれなりに記憶していたし、だから、当時もやっぱり印象に残っていたんだと思う。でもどうだろう。読み返してみて感じたのは、『思ってたほどじゃないな』だったよ。もちろん、再読で、しかも今度は話の筋をある程度覚えている状態だったから、真相が明かされたときのインパクトが弱いってのはあるとは思うんだけど

「ただ、それを抜きにしても、やっぱり、初読時に感じた感動はなかったと思う。これはどういうことだろう、と僕は考えたんだけど、たぶん、慣れちゃったのが問題なんじゃないかと思うんだよ

「と、いうのも、僕がこれを読んだときはようやくミステリのミの字を知りはじめた頃の話でさ、やっぱり、だから、『後期クイーン問題』とか『操り』ってワードには心躍らせていたわけですよ

「でもどうだろう。今はそれなりにミステリの酸いも甘いも知ってさ、その手のワードにも、あの頃みたいに純粋に反応できないわけだよ。それでなくても、僕、最近はすっかりミステリを読まなくなってしまっていたわけだし。

「だからなんだろな、ちょっとショックだったんだ。自分の、あまり好ましくない変化を突きつけられたようで。ちょっとね、センチな気分になってしまったんだよ。うーん、だから思わず読んでいない本の感想を書いてしまったのは、そういう僕の心境があってのことで、そんなにボロクソ云わんといてほしいというのが正直なところです」

あっそう。どうでもよかった。