いとぶろ

いとうくんの楽しい毎日

ゴールデンウィーク備忘録②

7日目

 滅入る。夕方、ハハノシキュウの独演会を見に下北沢に行く。ほとんど新曲のなか「四捨五入したら小学四年生」をやってくれて感動した。「続・翻訳機」が新鮮な感じでびっくりした。でも一番感動した曲は「小説家になろう」だった。泣いた。

 ライブ後、シキュウさんが「いとうくんのことあんまり知らないけど、まあなんか頑張ってね」と励ましてくれたので嬉しかった。いとうくんはといえば、「ビートモクソモネェカラキキナ 2016 REMIX」のRー指定のような状況に始終お腹が痛かった。

 帰りに高円寺で降りてお酒を呑んで帰った。しらすチャーハンが美味しい。

 

8日目

 滅入る。11時ごろ起床。身体が乾燥する感じがする。駅前にあるgionに朝食兼昼食を食べに行く。ここのナポリタンはレタスの量がひたすら多いことで有名。ナポリタンとレタスの割合が5:5、いや、4:6でレタスが勝っている気がする。レタスを食べすぎたせいで脳に水分が過剰に行ってしまい頭がクラクラした。食後、山本直樹『YOUNG&FINE』を読む。そして誰もいなくなる物語にしかリアリティを感じられないのでこの漫画はリアルだと思った。

 帰宅後、大阪に行くための荷造りをする。といっても、荷物はTシャツと寝間着ぐらいしかないのですぐ終わる。洗濯物をまわしながら少しだけ眠った。

 夜、新宿バスタに向かう。バス発車までまだ時間があったので、夕食につけ麺を食べる。それからコンビニで水とフリスクを買って乗車場に。結構人がいる。僕のとなりは若いお兄さんで安牌かと思われたが、いびきがうるさくて滅入った。さらに夕食に食べたつけ麺が重たかったのか、若干吐き気が……。フリスクを大量に摂取して、小沢健二『刹那』を流して無理やり眠る。

 

9日目

 滅入る。大阪着。あまり眠れなかったのと、座りっぱなしなのでしんどい。大阪に住む弟の家に転がりこみ、眠る。11時ごろ起床。キンプリ13時の回を観るため、梅田へ。久しぶりの梅田ブルク7に感極まる、かと思われたが、正直映画館なんてどこも似たような感じなのでそこまででもなかった。ユウくん回でまた泣いてしまった。

 夜は梅田地下にある串カツ屋で串カツを食べた。

 

10日目

 滅入る。大阪二日目。さっそく京都に行く。まずはやはり伏見稲荷。頂上を目指すが、うっかり便所サンダルで来てしまったため、途中で断念。悔しい。市内のほうに行く。

 京都のまちなかを歩いていると、僕がまだ大学のミス研にいたころのことを思い出す。新人歓迎会のとき、僕が自己紹介で好きな作家は佐藤友哉ですと言ったら上級生に総スカンを食らい、そのことがあってから僕は拗ねてミス研にいながら海猫沢めろん高橋源一郎中原昌也ばかり読んでいた。そのせいでますますクラブ内で孤立してしまった。それでも2回生の途中までは在籍していた気がするが、ある日3回生の当時会長だった人に呼び出されて、ミス研をやめるかエラリー・クイーンの全集を購入するか選択を迫られ、僕はやむなくミス研を退会した。

 しかし、よく考えたら僕の通っていた大学にはミス研なんてものは存在しなかったし、そもそも僕は京都の大学生ですらないことに気づいた。じゃあこの記憶はなんなんだ……。京都は危険だ。

 夜、京都タワーを昇る。京都タワーなら昇れる。望遠鏡で人々の私生活を覗きまくった。ホテルの一室で女の人が首をしめられて苦しんでいたけど、あの人は大丈夫だったんだろうか。

 

11日目

 滅入る。大阪三日目。神戸に行くか、大阪ミナミに行くか悩んで、結局ミナミに来てしまう。あんまり天気が良くなく、これまた便所サンダルで来たことを悔やんだ。

 日本橋に行く。もうすっかりjin doggが燃やした街という印象しかない。相変わらずカード屋が多いので全部燃やした。

 燃えた街をあとに、なんば、心斎橋あたりをウロウロ。三角公園でたこ焼きを食べていると急に雨が土砂降りになってたこ焼きどころではなくなってしまう。しょんぼり。これ以上外を出歩くのは無理だと判断し、急遽梅田に移動。駅前ビルをウロウロ。うわー。懐かしさのあまり卒倒してしまう。駅前ビルのなかのトイレは相変わらず虫がうじゃうじゃしてまともに用を足すこともできない有様だった。

 夜、雨もあがってきたので飛田新地に行ってみる。都市部の街並みは今ではもうすっかりどこも画一化されてしまったが、それでもこの街の雰囲気だけは東京では味わえない。お金がないので歩きまわるだけなのが悲しい。

 夜は久しぶりに探偵ナイトスクープを観る。このとき初めて、心から帰りたいと思った。

 

12日目

 滅入る。大阪四日目。梅田ブルク7に。青春はちゃんと終わる。僕はこの映画について語る言葉を持たない。

 

13日目

 滅入る。久しぶりの東京の朝。旅疲れか、お昼すぎにようやく布団から抜け出す。『知性は死なない - 平成の鬱をこえて - 』を読む。気づけば平成も終わりだ。正直このときをずっと待っていた。どうも。令和の舞城王太郎です。

 

14日目

 滅入る。部屋の掃除をすることにする。いつの間にかまたトイレが汚れている。この前きれいにしたはずなのに……。そのあと、床に転がる本をまとめてロフトの上に避難したら、今度はロフトがひどい有様になってしまったのでロフトの掃除も。きれいになったロフトに寝転がって佐藤哲也の『シンドローム』を途中まで読む。面白い。これの単行本はMARUZENジュンク堂梅田店で買った覚えがある。7階の児童書コーナーにあって、見つけるのに苦労した。『シンドローム』は僕の性癖を決定的な方向に捻じ曲げた本でもあるので、それが文庫化されて全国の本屋で平積みされているのはなんとも感慨深い。

 夜中、眠っていると着信。ヒプノシスマイクから。ごめん、とだけ言ってすぐ切られる。なんだったんだ?不快感をおぼえながらも、もう一度夢のなかへ。

 

15日目

 滅入る。昼頃、M3会場である東京流通センターに行く。大学の先輩がサークル出店しているらしい。しかし、遠いよ。ようやく着いたころには人気もまばらに。いろいろぶらぶらしてCDを何枚か買った。ホクホク顔で帰路につく途中、荻窪ゆうパックセンターに郵便物を取りにいかなちゃいけなかったのを思い出す。うーん。少し悩んだ末、後回しにすることに。急いでほしいものでもないしなあ。

 夜、高円寺にお酒を呑みに行く。しらすチャーハン、というのを初めて食べたけど、とんでもなく美味しかった。

 

16日目

 滅入る。結局郵便物は配達してもらうことに。なので午前中はおとなしく家に。『コミティア30thクロニクル』1巻を読む。やっぱりTAGROがずば抜けて面白い。星海社から出てる『マフィアとルアー』は傑作なので全人類が読むべし。

 無事荷物を受け取り、午後は阿佐ヶ谷周辺を散歩。なんとなく早稲田通りを荻窪のほうへ歩いてみる。こっちのほうは結構ロードサイド感が強い。なんか新鮮だ。そのまま井の頭公園まで歩いてみる。うおー。やっぱり休日の井の頭公園は人が多い!

 久しぶりに近所の銭湯へ。水風呂がないのが惜しいんだよなー。

 

17日目

 滅入る。昨日届いた『コミティア30thクロニクル』2巻と3巻を続けて読む。2巻に好きな漫画家が固まりすぎている。3巻に知らなかった漫画家の傑作を何本も発見してやっと得した気分に。

 午後はなんとなく東京駅のほうへ。日比谷公園で噴水を眺めながらボーッとする。僕が観測しただけで、4人の子供が転んでいた。うち泣いていたのは1人。子供は僕たちが思っている以上に強い。神妙な顔で見つめ合っていた男女のうち1人は泣いていた。そういえば明日はハハノシキュウの独演会がある。小説を読み直しておきたいのではやめに帰宅。

 

18日目

 滅入る。夕方、下北沢へ。ライブ会場でボーッとスタートを待っていると、やはりというか佐藤先生が会場に来る。隣でライブを観ることに。前にハハノシキュウ、横に佐藤先生という状況に「ビートモクソモネェカラキキナ 2016 REMIX」のRー指定のような気分だった。緊張で始終お腹が痛かった。

 新曲がどれも良い曲で、良い意味で新鮮な曲もあってはやくCDで聴きたいと思った。

 高円寺に寄って、お酒を呑む。しらすチャーハンが美味しい。

 

19日目

 滅入る。ゴールデンウィークも気づけば折り返し地点だ。ゴールデンウィーク後半戦は久しぶりに大阪に戻ることにしているので、早速準備。といっても、荷物はTシャツと寝巻きぐらいなのですぐ終わる。

 家にいても暇なので、吉祥寺のほうに。ジュンク堂で前田司郎『私たちは塩を減らそう』を買う。学生時代、買おう買おうと何度も手に取って結局買えずじまいだった本がいつの間にか文庫化していた。確か何かの配信で豊崎由美がこれに収録されてる「悪い双子」は芥川賞だよと褒めていたので気になっていたのに、ずいぶん経ってしまったなぁ。ちなみに『世にも奇妙な物語』で人気だったファナモの話も収録されているので、みなさんぜみ買ってみてください。

 一度家に帰り、荷物を持って今度は新宿へ。夕飯に重たいものを食べるとバスで気分が悪くなる予感がしたのでそばにする。それからコンビニでお茶とフリスクを買って乗車場へ。結構人が多い。僕の隣は若いお兄さんで、いびきもうるさくなく快適なバスの旅ができそうで一安心。小沢健二『刹那』を流して眠る。目が覚めたら僕は大阪にいる。

 

つづく

ゴールデンウィーク備忘録①

1日目

 滅入る。9時頃起床。荷物が来るので午前中は家に引きこもる。トイレと床の掃除をする。11時ごろ荷物が届く。『生活考察vol.6』と『コミティア30thクロニクル』の1巻。『生活考察vol.6』の海猫沢めろん先生の文章に感動する。見習いたい。珍しく夜は出歩かず家でおとなしくする。テロ、テロ、テロ、テロ……。

 

2日目

 滅入る。10時頃起床。『はぐれアイドル地獄変外伝V ボイス坂』を読む。面白い。人生舐めた女の子が声優を目指す物語ときいてパッと出てくるのはガーリッシュナンバーだけど、それよりもずっと面白かった。おそらく時代の先を行き過ぎていたんだと思う。この主人公は今のインターネット上だったらめちゃくちゃウケると思う。完全版書き下ろしでガッツリセックスシーンが入っているのでやっぱりウケないかもしれない。打ち切りのせいで描かれなかったエピソードのなかから、おそらく読者が一番望んでいないシーンをわざわざ書き下ろすって、それテロじゃん。テロ、テロ、テロ、テロ、テロ、テロ……。

 夜は銭湯に行って、お酒を呑んで眠った。

 

3日目

 滅入る。11時起床。数十件着信がある。全部ヒプノシスマイクから。折返しかけてみるが、つながらず。また着信拒否されてるっぽい。知らんがな。

 今日は荷物を受取るために荻窪のほうまで足を伸ばす。『コミティア30thクロニクル』の2と3が届いたのだ。早稲田通りを荻窪方面に歩いたことはなかったのでちょっと新鮮。こっち側は結構ロードサイド感が強い。汗だくになりながら荻窪ゆうパックセンターに到着。無事荷物を受取る。それから荻窪駅のほうへ歩き、洋食屋でご飯を食べる。洋食屋は家族連れで賑わっていた。厨房がちょっと険悪なムードでちょっと緊張した。

 肉体的にも精神的にもクタクタになって家に帰り、『コミティア30thクロニクル』を1巻から読み始める。武内崇メイドさんは魔女』、TAGRO『R.P.E』、南研一『SUMMER SONG』が面白かった。久しぶりに武内崇の性癖に触れて嬉しくなる。

 具合が悪く、早めに眠った。

 

4日目

 滅入る。『コミティア30thクロニクル』の2巻を読む。今井哲也『カレーLOVE!!!』、panpanya『地下行脚』、ハトポポコ『もぐもぐ食べる4コマ』が面白かった。panpanyaが新宿の地下には虎がいるというので真相を確かめるため新宿へ行く。広大な地下をぐるぐる廻るが虎、見つからず。なぜかずっと同じところをぐるぐる廻ってしまう。無意識下で防衛本能が働き、非日常へ至るルートを回避してしまっているのかもしれない。仕方ないので諦めてウインズへ。ロードヴァンドール、ズブズブになって沈んでいく。なぜかこの結末を僕は知っている気がする。だからあまり落ち込まなかった。

 一度家に帰り、シャワーを浴びてから高円寺に呑みに行った。

 

5日目

 滅入る。朝はやく起きてしまったので、駅前の喫茶店に行き、途中になっていた佐藤哲也『シンドローム』を読む。神。僕が大学時代に読んだ青春小説のなかでも群を抜いて良い。佐藤哲也は天才。

 午後は家で『コミティア30thクロニクル』の3巻を読む。おざわゆき『COPYMAN』、水寺葛『教えてあげよう』、犬上すくね『未来の恋人たち』、青木俊直『ロックンロール2』が面白かった。『COPYMAN』や『ロックンロール2』など、大変読み応えがあってすごい。こんな漫画を同人誌で描くなんてどうかしている。読み終えてしばらくクラクラしていた。オチをのぞけば『教えてあげよう』が一番感動した。

 夜、ヒプノシスマイクから電話がかかってくる。30分ほどの無言のあと、一言だけ「ごめん」と言われた。わけがわからずかけ直してみるも、やはり着信拒否。腹が立ってそのまま眠る。

 

6日目

 滅入る。なぜか体調が優れず一日中寝ていた。布団のなかでルネッサンス吉田『中年卍』を読む。ホモじゃないけど面白かった。コンビニ弁当を食べてウトウトしながら中村一義のアルバムをリリース順に聴いた。祈り。もうゴールデンウィークも折り返し地点だ。少しさみしい。久しぶりに大学時代に戻った感じがして、結構楽しいんだけどな。

 

つづく

何でもない誰でもないどこにも行けない

 晴れている。

『愛でもない青春でもない旅立たない』を一日かけて読んだ。分量にして文庫本174ページ。本を読むなんて久しぶりだったから頑張った。僕はすごい偉いかもしれない。

 でも実を云うと、冒頭3ページだけは昨日のうちに読んでいた。だから今日は正確には171ページを読めばよかった。僕は京急蒲田駅へ向かう電車のなかだった。蒲田に行くのはちょうど一年ぶりだった。3月31日。あの日と同じく、最寄り駅から新宿を経由し品川駅へ、そこから京急に乗り換えて京急蒲田駅へ向かった。僕がバイトで若者に吐き捨てるように視線を外されてもうこのバイト辞めようと思ったり、オッサンの胸で泣きたい気持ちになっていると京急蒲田駅に到着した。一年ぶりの蒲田。なんもかわんねー。蒲田の街は、なんか、色がない気がする。強いていえば灰色?行ったことないけど五反田もおんなじような感じがする。前に住んでいた街の駅まわりも似たような感じだった。文フリ会場まではすぐだった。でも去年は会場までもう少し歩いた気がする、、、。もしかしたら去年は京急を使わずに来たのかもしれない。マイドリの三人がタッキーをハンマーで叩いて壊すショート漫画などが載った短編集と、春音あいらがPrizmmyの4人に下着をコーディネイトしてハピラキになる漫画と、WITHの3人がひたすら犯される漫画を買った。本当はブサイクになったオバレの3人がめるめるに夢中になっている漫画も欲しかったけど僕が会場に着いたときにはもう完売していた。くやしい。だから見本誌だけ立ち読みして帰った。高架下にあるラーメン屋で食べたつけ麺が美味しかったから許すことにした。気分が良いので蒲田の町並みを散歩しようかと思ったけど気づいたら駅にいて、電車を待っていた。山手線に乗り換えて、ちょうど途中に五反田があるし降りてみようかと思っていたけど目が覚めたら新宿駅にいた。僕は行ったことのない場所には行けない。その頃僕は、高山先生が美味しいとブログに書いていたタイ焼きを探して、元宮ユキと大森をあてもなく歩き回っていた。結局タイ焼きは見つからなかった。

 新宿ベルクでビールを飲みながら、大阪杯の結果が出るのを待つことにした。発走まで時間があったので、単勝⑦を買い足した。単勝⑦を買い足したってことは、心のどこかで僕は朝買った馬券ワイド⑦ー①⑫⑭が外れると思っているのだな、と思った。予想通り僕の馬券は外れた。本当は結果を知ってから、まあこの馬券が外れるというのはわかってましたけどね、という風にして精神へのダメージを最小限にとどめたんだけど、順番がどうであれ負けた事実に変わりはないのでどうでもいいことだと思う。でも信じてもらえないかもしれないけど、当たる馬券というのは馬券を買った瞬間にわかってしまうものだったりするのだ。村上春樹は野球の試合を見ていて急に天啓を得て自分は小説を書けることに気づいたと云うけど、それと同じことだと思う。

 家に帰った。

 僕はそれからまなみにちんこを写生されたり元宮ユキと下北で飲んだ流れで浮気をしてしまったりしていた。俺ならこのまま始発までセックスせずに帰れると思ったけどだめだった。でも僕は一度も射精をしなかった。僕は夢の中で覚めることができる。云い忘れていたけど、それがこの小説では重要なことの一つなのだと思う。

 夕食にgionでナポリタンを食べた。いつも思うけどこの店でナポリタンを頼むとサラダのレタスの量が尋常じゃない。そっちを食べるのに一生懸命でナポリタンがおざなりになってしまう。でも野菜を食べるのは健康的だからいいことだと思う。僕はまなみと別れることになる。なんとなくそんな気はしていた。

 それから久しぶりによるのひるねに行ってみた。もう時間は午後8時を過ぎていた。店内は相変わらず小汚い感じだったけど、店内に置かれた本が整頓されてるようにも感じた。近くの映画館で日活ロマンポルノをやっていると聞いて少し行きたかったけどどうしようか悩んでいた。とりあえずモスコミュールを頼んで残りの小説を全部読むことにした。読めた。これはすごいことだ。僕はそう思った。僕が前田司郎のことを好きになったのは大学3回生の頃だったと思う。それから僕は社会人になってしまった。前田司郎は変わらず好きでいられた。こみ上げてくるものがあって帰り道は歩きながら田村ゆかりの歌を聴いた。いい歌をうたうよなあ。

東京タワーと僕と、僕

317日(日)

昨日がんばって書いた記事が全然読まれなくてかなしくなる。僕は3回読んで6回泣いたのに……。もうどれだけがんばってみても何の意味もないみたいだし、変なことを書くのはやめようと思う。楽に書ける日記だけ書いていくことにしよう。本当に起こったことだけを書いていくことにしよう。キンプリ応援上映に行って元気になる。だけど夕方過ぎにはかなしくなる。休日が終わるのが怖くてもう休日すら嫌いになってきた。かなしい。馬券が当たったことだけが救いか……


318日(月)

まったく記憶がない。本当のことだけ書こうにも、本当のことを覚えてないのだからなにも書くことができない。仕方ないから嘘を書くことにする。けど嘘も出てこない。なにもない。ジャンプを読んだのは覚えてる。


319日(火)

仕事が終わらない。あげく、職場の人たちが僕の悪口を云っている気がしてきた。あれ?


320日(水)

仕事が終わらない。相変わらず周りの人たちは僕の悪口を云っている。仕事だって、今日は終わるかもと思っても、必ずあらゆる要因に阻害される。でも一番の原因は僕の能力のなさにあるので帰り道かなしい気持ちでいっぱいになる。明日は休みなのでハイボールを飲みながら駅から歩いて帰る。


321日(木)

6時に目がさめる。お米と青汁が届くので午前中は家にいなくちゃいけない。まどろみながら、『BLOOMS SCREAMING KISS ME KISS ME KISS ME』と『めぐまれない大人達』と『ファンキーヤンキーベイビーくん』を読む。ナヨナヨしたモノローグこそBL漫画の醍醐味なのかもしれん。お昼過ぎに髪を切りに行く。髪を切る人と話すのは苦手なので鏡を見るが鏡に映る自分を見つめるのも苦手なのでじっと手を見る。髪を切るのは好き。それから新宿ベルグ石丸元章さんの朗読会に行く。飛び込み参戦の女の人が漢の小説の漢パート(?)を朗読していて新鮮だった。石丸元章さんは前にちょこっと会ったことがあるだけのいとうくんのことを覚えてくれていて感動した。そのあと、読書するため喫茶店に入るけど、1ページ目を通すまもなく爆睡してしまう。とにかく疲れていたのだ。外に出ると真っ暗だったので東京タワーに行くことにする。およそ一年ぶりの再挑戦。結果は惨敗。今回も東京タワー征服ならず。きらきらと輝く東京タワーはきらきら輝いていないと入ることができない。上野動物園と東京タワーと心中したい。それから帰りの電車のなかでどうでもいいような日記を書く。あとは大きいお風呂にでも入ってお酒呑んで寝るんだろう。明日も休みなので遠出したいけど僕の体力がないから怪しい。頑張って湘南あたりに行ってみたいのだけど……

きらめく

 ーーわりぃけど。
 結局、最後まで香賀美くんは僕と目を合わそうとはしなかった。
 新幹線のドアが閉まる。僕は遠くなっていく香賀美くんを、ただ眺めることしか出来なかった。
 それが僕が最後に見た、香賀美くんの姿だった。

 

 香賀美くんとは小学校からずっと同じクラスだった。と云っても、そこに例えば運命とかそういう概念はなく、ただ僕たちの通っていた学校が学年に1クラスしかないようなところだったというだけだ。
 まわりと喧嘩ばかりしてクラスのなかでも浮き気味だった香賀美くんと、人から嫌われることを過剰に恐れていつもへらへらと笑っていた僕。
 普通に暮らしていれば、臆病なだけの僕と、周りとぶつかることを恐れない香賀美くんが関わりあうことなんてまずなかっただろう。
 しかし、小3の夏休み、とある出来事をキッカケに、僕たちの仲は縮まった。ここではその出来事については語らない。香賀美くんを失った僕にとって、その出来事は文字通り宝物であり、僕には自分の宝物を誰彼かまわず見せびらかすような趣味はない。
 とにかく僕たちは仲良くなった。休み時間は二人で学校の隣にある山を駆けめぐった。(休憩時間だけそこに立ち入ることが許可されていた。)放課後は二人で香賀美くんの家に行って、香賀美くんのお姉ちゃんを交えて遅くまで遊んだ。香賀美くんは運動が得意で、サッカーやバスケをすれば僕と香賀美くんのお姉ちゃんの二人がかりでもまったく歯が立たなかった。かわりに勉強はからっきしで、宿題のときだけ僕は香賀美くんより優位に立つことができた。算数の問題に頭を悩ませる香賀美くんを見ているのはなんだかほほえましかった。
 相変わらず、教室のなかでは香賀美くんは窓際の自分の席でぼんやり外を眺めていることが多かったけど、僕が近づくと普通に会話をしてくれた。香賀美くんと仲良くなればなるほど、他のクラスメイトからは疎まれるようになったけど、僕はまったく気にならなかった。香賀美くんがいれば楽しかった。香賀美くんの前でなら、臆病にへらへら笑う必要もなかった。みんな、香賀美くんを怖がって、へんなちょっかいをかけてくるようなこともなかった。
 僕は香賀美くんがいればそれでよかったし、香賀美くんも僕といるときだけは楽しそうにしていた。
 そんな僕たちの仲に変化が生じ始めたのは、小5の夏休み明けだった。
「おい、知ってるかよ。プリズムショーってすっげぇんだぜ!」
 新学期初日、教室で珍しく声を高ぶらせて、香賀美くんは僕の肩を強く揺すった。
 香賀美くんはこの夏休み、お父さんの仕事の都合でずっと東京にいた。どうやら、そこでプリズムショーというものに出会ったらしい。
 プリズムショーとは、どうやら東京のほうで流行っている一種のスポーツのようなものらしいが、まだインターネットも十分に発達していないような田舎町では誰もそんなものは知らなかった。もちろん、僕を含めて。
 香賀美くんは、プリズムショーは祭りだとか、心が燃えるだとか、炎が出るだとか、そういう説明をしたけど、正直まったくピンとこなかった。
 惚けた顔をしていると、香賀美くんは、
「じゃあ放課後うちに来いよ。見せてやっからよ」
 と宣言した。

 云われなくても、僕は放課後は香賀美くんのうちに行くつもりだった。なにせ一ヶ月ぶりに香賀美くんと会ったのだ。僕のほうにも、話したいことはたくさんあった。香賀美くんがいない夏祭りで、新興勢力が幅をきかせ始めたこと。町の図書館で読んだおもしろい小説のこと。台風でラボの扉が一部破損したこと。子猫を飼い始めたこと。僕が猫アレルギーだったこと。山のなかで捕まえたクワガタのこと。クラスメイトの上田くんと二ノ倉さんが二人で祭りに来ていたのを目撃したこと。家のトイレが新しくなったこと。絵日記を描いてなくて昨日まで真っ白だったこと。コーヒーが飲めるようになったこと。夏休みに出会った、不思議なおじさんのこと。町で起こった神隠しのこと。一学年上で、香賀美くんと喧嘩したこともある山上くんが神隠しにあったこと。不思議なおじさんが山上くんの神隠し事件を解決したこと。不思議なおじさんは、自分のことを名探偵だと名乗っていたこと。山上くんに告白されたこと。
 その日は始業式で、午前中で学校は終わった。僕たちはいつもの田んぼ道を歩いて、香賀美くんの家に向かった。
 香賀美くんの家に行くと、縁側で、香賀美くんのお姉ちゃんがスイカを食べていた。聞くと、中学校は明日まで夏休みらしかった。中学生はいいな、と思った。僕も早く大きくなりたかった。
 今日はなにして遊ぶの?と訊いてくる香賀美くんのお姉ちゃんに、香賀美くんは教えねー、と冷たく返した。えー、なんでよー、と香賀美くんのお姉ちゃんは不服そうだったけど、香賀美くんは無視して僕の手を引いて裏山へとさっさと歩き出した。香賀美くんの手のひらはうっすら汗ばんでいた。
 裏山の、崖下にちょうどいい感じの空き地があって、そこはまわりに草が生い茂っていてちょっと外から見ただけじゃ空き地があるなんてわからないから僕と香賀美くんは生い茂る草木をかぎ分けた先にラボを作っていた。香賀美くんのお姉ちゃんも知らない、秘密の場所。段ボールや枯れ木を使って作った二人だけの世界。
「見てろよ」
 ラボに着くなり、香賀美くんは、早速地面を滑り始めた。本当は音楽にあわせて滑ったり踊ったりするらしいけど、僕たちは音楽を持ち運べるような機械は持っていなかったから、セミの鳴き声やどこからともなく聴こえてくる鐘の音や草木がこすれる音をBGMにするしかなかった。
 それでも、香賀美くんは楽しそうに滑っていた。それは例えば、お祭りのときに見せるとびきりの笑顔だった。夏祭りのとき、激しく神輿をかかげるように香賀美くんは滑り、踊った。
 そして香賀美くんは最後に地面を蹴って高く飛び上がった。僕はそれを見たとき、ラボが焼けてしまう!と本気で焦った。実際には香賀美くんの出した炎を何も燃やさず、ただ僕の心を熱くしただけだった。
 うまいこと地面に着地した香賀美くんは、得意げな顔で僕を見た。僕はなぜか目をそらしてしまった。

 それから香賀美くんは毎日放課後、プリズムショーの練習に打ち込むようになった。場所はいつも僕たちのラボだった。香賀美くんが跳び、僕はそれを眺める。退屈ではなかった。香賀美くんのプリズムショーは日を追ごとに良くなっているように思えた。僕は気付けば、香賀美くんのプリズムショーに夢中になっていた。ただ、プリズムショーをしている時の香賀美くんは、そこにいる僕じゃなくて、誰か別の人のことを見ているような気がした。だから、香賀美くんのプリズムショーは好きだったけど、プリズムショーをする香賀美くんのことは、あまり好きにはなれなかった。
 ある日、ついに耐えきれなくなって、帰り道僕は香賀美くんに久しぶりに他のことをやってみないかと誘ってみた。例えば、バスケとか、カードゲームとか、なんでもいい。プリズムショー以外のことを。

 小6の冬休みだった。
「やだ。プリズムショーよりおもしれぇもんなんかねぇ」

 だけど香賀美くんは聞く耳を持ってはくれなかった。
 香賀美くんはまっすぐだった。いつだって自分に正直だった。他人からなんと云われようが、自分のやりたいことを貫き通した。
 香賀美くんにとっては、僕だって立派な他人なのだ。
「プリズムショープリズムショープリズムショーって……。そんなのやって何になるんだよ。この町じゃ、誰もそんなの知らないのに!」
 気づけば僕は叫んでいた。
「……そうかよ」
 叫ぶ僕を、香賀美くんは冷めた目で見つめる……。
「好きにしろよ」
 それだけ云うと、香賀美くんは一人でラボのほうへ行ってしまった。僕を置いて。僕はしばらくそこに立ち尽くして、それから一人で家に帰った。

 

 それから冬休みがあけるまで、香賀美くんと会うことはなかった。冬休みがあけても、香賀美くんと喋ることはなかった。そして三学期も終わり、春休みがあけて、僕たちは中学生になり、クラスが別れて顔をあわせる機会も減った。

 

 香賀美くんが東京に行くことを知ったのは、中学を卒業して高校生になるのを待つだけの何者でもない春休みのことだった。僕は友達の家にいて、何人かで麻雀をしていた。
「そういえばさ、二組に香賀美っているじゃん?あいつ、東京に行くらしいぜ。プリズムショー?とかいうやつの学校に進学するとか。馬鹿みてぇだよな。なんだよそれ」
 その時の僕がどういう感情で行動したのか、僕にもよくわからない。ただ、気がついたら血塗れになった友達が倒れていて、誰かが怒鳴っていた。
 ここは僕がいるべき場所じゃないと感じた。
 ラボに行きたい、と思った。
 僕は友達の家を飛び出して、何度も通った香賀美くんの家までの田んぼ道を走った。
 香賀美くん!香賀美くん!香賀美くん!僕は心のなかで何度も叫んだ。
 久しぶりに見た香賀美くんの家は、記憶とまったく変わらずそこにあった。見慣れた玄関を叩くと、香賀美くんのお母さん出てきた。あら、久しぶりねと陽気に挨拶をする香賀美くんのお母さんに、僕は一言、香賀美くんは、と呟いた。


 もう香賀美くんは駅行きのバスに乗っていた。

 

 それからどうやって駅まで向かったのかを僕はよく覚えていない。かすかに記憶しているのはきれいな馬の背中で、だけど、まさかいくらここがど田舎だとは云え馬がそのへんを走っているわけもないからきっと夢を見ていたんだろう。香賀美くんのお父さんあたりが車で送ってくれたのかもしれない。

 

 駅のホームで、香賀美くんはなぜか大量のネギをリュックに詰め込んで新幹線が来るのを待っていた。その姿が妙におかしくて、僕はちょっと吹き出してしまう。それで緊張がほぐれたのか、久しぶりだと云うのに自然に喋りかけることができた。
「なに、そのネギ」
「……んだよ」
 久しぶりに、面と向かって対峙する香賀美くんは、少し照れくさそうに俯いた。
 当たり前だけど、香賀美くんは小学生のときより背も伸びて、体つきもしっかりしていた。目つきもずっと鋭くなった。もう、小学生のころの幼さはまったく残っていなかった。大人になっていくんだ、香賀美くんも、もちろん、僕も、と思った。
「プリズムショー、続けてたんだ」
「あぁ……?あたりめーだろ」
 そうだ。当たり前なのだ。プリズムショーをしているときの香賀美くんはきらきら輝いていたのだ。その煌めきが潰えるようなことなんてのは、絶対に起こりえないのだ。それは呪いに近い。呪いに近い何かに突き動かされるように、香賀美くんはこれまでプリズムショーをやってきたし、これからもプリズムショーをやっていくのだ。
「……東京、行くんだ」
「ああ。殴んなくちゃいけない人がいる」
 きっとその人が香賀美くんにプリズムショーを教えてくれたんだろうな、と思った。
「香賀美くん、」
 何か云わなくちゃいけない。でも何も云えばいいのかわからない。伝えたいことはたくさんあった。訊きたいことはたくさんあった。だけどそうするだけの時間が僕たちにはなかった。
 ホーム中に響くアナウンスを聴く。黄色い線の内側までお下がりください。
「んだよ。云いてぇことあんならさっさと云えよ」
 だけど、僕は何も云えない。僕は何も云えない。僕は何も云えない。僕は何も云えない。
「……新幹線、来たぞ」
 気づけば香賀美くんはすでに新幹線のなかにいた。そこは黄色い線の外側。僕には絶対に越えることのできないところ。香賀美くんはここではない場所に行くのだと、ようやく実感が湧いた。香賀美くんは、僕じゃ届かない場所へ行こうとしている。どこにも行けない僕を置いて。僕はここにいることしかできないのに。
「香賀美くん、」
 新幹線のドアが音を立てる。香賀美くんはここではないどこかへ行ってしまう。行ってしまおうとしている。

 でも。でも、まだ。まだ、今はまだここにいる。
 伝えなきゃ。

 

 ーー好きでした。

 

 香賀美くんは一瞬、目を丸くして、それから一言だけ、

 

 そして、香賀美くんはもうここにはいない。

 

 それから僕はホームのベンチで一人で泣いた。驚くことに、そこからどうやって家に帰ったのかも僕は覚えていない。

 僕はそれから三日間、熱を出して寝込んでしまった。僕にしては、一日にいろいろなところを忙しく動いたからかもしれない。おそらく僕に移動は向かないのだ。僕は、裏山の、誰からも見えないようなところでひっそりと息を潜めているほうが性にあっている。所詮、ただの平凡。僕はどこにも行けず、ただただ田んぼが広がるだけのこの世界で死ぬまで生きていくのだ。

 一週間後、動けるようになった僕は久しぶりにラボに行ってみた。驚くことに、そこには小学生のときとまったく変わらず、段ボールと枯れ木で出来た小屋があった。
 中に入ると、湿った段ボールや枯れ木の匂いに混じって、かすかに香賀美くんの匂いがした。

 そこは、体を曲げることでようやく寝ころぶことができるだけの小さな世界。
 さようなら、僕の青春。
 好き、でした。
 誰もよりも、何よりも。
 もう二度と戻らない日々よ。
 幸福な記憶とともに、夢も見ず僕は眠る。

おしまいのひ

 2018年3月4日(日)15時45分。僕は梅田ウィンズにいて、レース開始のファンファーレが鳴るのをただ待っていた。そこにいるすべての人たちが、ただ待つことしかできなかった。息を潜めて、馬券を力強く握りしめて。僕は寝不足の瞳で発射を待つ馬を見つめる。昨夜は断然人気ダノンプレミアムがその人気に応えることができるか心配であまり眠れなかった。それで朝早くに目が覚めてしまった僕は、どうにも胸がそわそわして我慢できずお昼前には梅田ウィンズにいた。「どこいくん?」慣れない玄関で靴を履いていると、後ろから声がした。その頃、僕はずっと住んでいたアパートを引き払って弟の部屋にお世話になっていた。もう僕には大阪に居場所なんてなかった。「競馬行く」
 しばらくして、ようやくファンファーレが聞こえてきた。何かが決まろうとしていると感じた。そして、終わってしまうように思えた。パドックに飽きて壁際に避難した時、ずっと座って熱心に新聞を読み込んでいたおじさんが「ここはこない」と呟いているのを見た。ネット競馬の掲示板の有識者も距離不安やコース適正をしきりに気にしていた。僕は競馬の詳しいことはよく分からないけど、みんながそう云うなら、そうなんだろう、と思っていた。人気ほど勝利は確実とは云えず、そこには少なからぬ懸念点があるのだと。
 そして、馬が発射して、
 どこかでだれかが叫んだ。
 まだ朝の6時だった。今週風邪を引いてから、目の覚める時間がどんどん早くなっている。僕は時刻を確認するために手に取ったスマホを放り投げて、ゆっくりと身体を起こした。今日は朝から大事な映画を観に行く日だった。
 よく昔のことを夢に見る。ダノンプレミアムが圧勝した次の日、僕は少なくない荷物を持って東京行きの新幹線に乗った。着いてみれば東京はひどい雨で、契約した不動産がある中野駅からアパートまでのバスで隣の女の人に「東京はいつもこんな雨が降るんですか?」と訊かれた。知らなかった。女の人は、こっちに住む息子に会いに初めて東京に来たらしかった。僕は適当に笑っておいた。最悪なスタートだと思った。大阪に居場所はなく、東京は僕を歓迎していない。ダノンプレミアムは成功し、僕は負けたのだと思った。僕と、サトノクラウンは。
 あれから、ちょうど一年が経つ。
 王者ダノンプレミアムはダービーの大敗を最後に、今日までついに一度も走ることはなかった。僕のほうはといえば、大した敗北もなく、日々をぬくぬくと消費しているよ。
 もちろん、いろいろなことはあった。あり得ないような出会いもあった。誰かが仕組んでるんじゃないかと勘ぐるような奇跡もあった。そして、たくさんのかなしいこともあった。ずっと、何かをかなしいと感じる気持ちが、僕の中にはある。僕の中にあるのは、たぶん、それだけなのだ。そうして、全てはこれから終わるんじゃなくて、もう終わってしまったんだと気づくのだ。
 新宿の朝は静かだった。僕は意味もなく新宿の地下街を徘徊した。それは、もうどこにも無い、だけど、かつて、確かにあった記憶の残滓だ。イヤホンから聴こえてくるのはバーガーナッズで、全部終わった。全部終わったよ。
 だけど続く。

 映画館にいるすべての人が、緊張しているのがわかった。緊張と不安と興奮。僕はこれと同じ光景を見たことがある。それも、何度も。

 ずっと続いている。
 来週、約一年間の沈黙を破り出走が決まった馬がいる。巨大なスクリーンの前に座り、これから始まるであろう青春について思いを馳せる僕もいる。たしかに何かは終わって行くが、それと同じように続いていく何かもある。
 スクリーンはゆっくりと僕を照らす。
 つづく。

にっき

朝起きたら頭が痛かった。なんでなのかはわかんない。一〇時半くらいまで布団のなかにいた。疲れてるのかもしれない……と思った。最近、帰る時間と寝る時間が遅くなってきていて、寝不足なのかもしれない。毎日十一時に寝てたのが十二時に伸びた。明日が来るのが怖いので明日になってから寝るようにしている。じゃあ今日は怖くないのかというと、怖い。結局怖いなら早く寝るべきなんだろうけど、漫画アプリの更新は0時なのだからしょうがない。大きいお風呂に行くことにも外にお酒を飲みに行くことにもあんまり積極的ではなくなってきたけど、昨日は大きいお風呂に行ってお酒を飲んで帰ってきた。ちょっとだけ疲れが取れたし楽しかった。そろそろどっかのヒップホップクルーに入れてほしい……。今日は一文字も本を読めなかった。かわりに『喧嘩商売』の22〜24巻を読んだ。全部読んだことある話でびっくりした……。玉拳の人が好き。それから新宿ベルクに行ってビールを飲んだ。駅ビルの中にあるしビールが安いので楽しい。でも新宿まで来て、ベルクに行く以外には何一つやりたいことがなかった。メロンブックスに行っておけばよかった……。紀伊國屋書店タワーレコードに行ったけど足が疲れただけだった。帰りに新宿ベルクに行ってビールを飲んだ。どうしてこうなってしまったんだろう。まったく前進せず、何も更新されず、かといって後進することもないまま日々が過ぎていく。明日はプリティーオールフレンズカフェの予約をしたけど今から原宿に行くのが憂鬱で仕方がない。もうしばらく人混みはいいや……という気分。ていうか、ウチはグッズが欲しいだけやねんけどカフェまで行かなあかんの?プリズムストーンショップ阿佐ヶ谷店の中学生店長いとうくんは抗議します。そういえば中野に行く前に高円寺に行った気がしてきた。けど何をしたのかよく覚えてない……。意味もなく早稲田通りを散歩しただけだったと思う。

おわり。